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大阪家庭裁判所堺支部 昭和51年(少)2186号 決定 1977年1月10日

少年 D・S(昭三六・八・二一生)

主文

少年に対し強制措置を採ることは、これを許可しない。

本件を、富田林児童相談所長に送致する。

理由

(本件送致事由の要旨)

少年は夜遊び、怠学、単車無免許運転の常習者であり、昭和五一年六月七日教護院たる府立○○学院に収容保護されている者であるが、右学院内で常時無断外出の機会を窺い昭和五一年七月五日~七日、同年九月一五日~一七日、同月二五日~二八日、同月三〇日~一〇月一日、同年一〇月四日~一二日、同月二二日~二六日、同月二七日~現在まで無断外出を繰り返して教護院に落ち着いて生活をする意思を有せず、右無断外出中放浪して友人に誘われてシンナーを吸引し、単車の無免許運転をするなど反社会的行動が深まりつつある。また少年の家庭は父が仕事で長期間外国に在り、二~三ヵ月に数日間帰宅するのみであり、母も少年の反抗的な態度に怖れて少年の行動を規制できず、少年の指導、監護を望めない状態にある。よつて少年に対しては児童福祉法二七条の二(少年法六条三項により)約一ヵ月間の強制的措置の許可を求める。

(当裁判所の判断)

よつて審按するに、調査の結果によると、少年は、両親、弟(二人)妹の六人家族に育つたが幼いころから祖母や両親に溺愛されて育つたため、幼稚未熟であり、基本的な躾不足のため不満耐性に乏しく自己をコントロールできず、社会的枠組みへの無関心、自主性の欠如が目立つている。しかしながら右の点を除いては特に大きな性格の偏りは認められない。

少年は小学校三年生ころから家庭や親戚宅から金員を持ち出して費消し、小学校五年生のころには万引などの非行で警察の取調べを受け、このころから両親も少年の問題非行について児童相談所に相談するようになつて以来少年ともどもその助言、指導を受ける様になつた。少年は中学二年生の終りころから怠学が目立つようになり、三年生に進級後は殆んど登校せず、ゲームセンターへの出入り、夜遊び、単車の無免許運転を繰り返し、このため昭和五一年六月七日修徳学院に収容されたが、本件送致事由記載のとおりの無断外泊を繰り返して同学院に落ちつく意思を有していない。少年の父は勤務先の都合で昭和五〇年三月ころから韓国京城市に長期出張中であり、母は少年に対しては一貫した躾方針をも持ち得ないまま現在に至つている。

そこで、少年が前記のとおり無断外出を繰り返した背景についてみると、右教護院に収容の際、父及び中学教師から、保護者の引取り意思さえあれば帰宅できること、父がその意思を有していることを聞知したため、安易に帰宅できるものと考えたためと加えて前記のとおりの少年の幼稚、未熟な性格、自己規制への欠如も相成つて本件無断外出を繰り返すようになつたこと、帰宅すれば教護院に連れ戻されることを恐れ、交遊関係のある友人宅を泊り歩き情緒的にも不安定となつていたものでありこれが又無断外泊を繰り返す要因ともなつていたことが窺われる。

ところで少年は本件による観護措置取消後早速右学院を無断外出して帰宅しているのであるが、現在は情緒的にも落ち着き、児童相談所、中学校、保護者の監護に服しており中学校も将来は少年の復学について積極的な受入れの意思を有していること、保護者も強制措置については強くこれを拒否していること、その他諸般の状況に鑑み現段階では本申請を許可するのは不相当であると考えられるので主文のとおり決定する。

(裁判官 渡辺安一)

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